マニアックな判例
事件番号 平成3(ク)143
事件名 遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告
裁判年月日 平成7年07月05日
法廷名 最高裁判所大法廷
裁判種別 決定
結果 棄却
判例集巻・号・頁 第49巻7号1789頁
原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号
原審裁判年月日
判示事項
民法九〇〇条四号ただし書前段と憲法一四条一項
裁判要旨
民法九〇〇条四号ただし書前段は、憲法一四条一項に違反しない。
参照法条 憲法14条1項,民法900条
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主 文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理 由
抗告代理人榊原富士子、同吉岡睦子、同井田恵子、同石井小夜子、同石田武臣、同金住典子、同紙子達子、同酒向徹、同福島瑞穂、同小山久子、同小島妙子の
抗告理由について
所論は、要するに、
嫡出でない子(以下「非嫡出子」という。)の相続分を
嫡出である子(以下「嫡出子」という。)の相続分の二分の一と定めた
民法九〇〇条四号ただし書前段の規定(以下「本件規定」という。)は
憲法一四条一項に違反するというのである。
一 憲法一四条一項は法の下の平等を定めているが、
右規定は合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであって、
各人に存する経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異を理由として
その法的取扱いに区別を設けることは、
その区別が合理性を有する限り、
何ら右規定に違反するものではない(最高裁昭和三七年(オ)第一四七二号同三九年五月二七日大法廷判決・民集一八巻四号六七六頁、最高裁昭和三七年(あ)第九二七号同三九年一一月一八日大法廷判決・刑集一八巻九号五七九頁等参照)。
そこで、まず、右の点を検討する前提として、我が国の相続制度を概観する。
1 婚姻、相続等を規律する法律は
個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない旨を
定めた憲法二四条二項の規定に基づき、
昭和二二年の民法の一部を改正する法律(同年法律第二二二号)により、
家督相続の制度が廃止され、
いわゆる共同相続の制度が導入された。
現行民法は、相続人の範囲に関しては、
被相続人の配偶者は常に相続人となり(八九〇条)、
また、被相続人の子は相続人となるものと定め(八八七条)、
配偶者と子が相続人となることを原則的なものとした上、
相続人となるべき子及びその代襲者がない場合には、
被相続人の直系尊属、兄弟姉妹がそれぞれ第一順位、
第二順位の相続人となる旨を定める(八八九条)。
そして、同順位の相続人が数人あるときの相続分を定めるが(九〇〇条。以下、右相続分を「法定相続分」という。)、
被相続人は、右規定にかかわらず、
遺言で共同相続人の相続分を定めることができるものとし(九〇二条)、
また、共同相続人中に、
被相続人から遺贈等を受けた者(特別受益者)があるときは、
これらの相続分から右受益に係る価額を控除した残額をもって相続分とするものとしている(九〇三条)。
右のとおり、被相続人は、遺言で共同相続人の相続分を定めることができるが、
また、遺言により、特定の相続人又は第三者に対し、
その財産の全部又は一部を処分することができる(九六四条)。
ただし、遺留分に関する規定(一〇二八条、一〇四四条)に違反することができず(九六四条ただし書)、
遺留分権利者は、右規定に違反する遺贈等の減殺を請求することができる(一〇三一条)。
相続人には、相続の効果を受けるかどうかにつき選択の自由が認められる。
すなわち、相続人は、相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、
単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない(九一五条)。
九〇六条は、共同相続における遺産分割の基準を定め、
遺産の分割は、
遺産に属する物又は権利の種類及び性質、
各相続人の年齢、
職業、
心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする旨規定する。
共同相続人は、その協議で、遺産の分割をすることができるが(九〇七条一項)、
協議が調わないときは、その分割を家庭裁判所に請求することができる(同条二項)。
なお、被相続人は、遺言で、分割の方法を定め、
又は相続開始の時から五年を超えない期間内分割を禁止することができる(九〇八条)。
2 昭和五五年の民法及び家事審判法の一部を改正する法律(同年法律第五一号)により、
配偶者の相続分が現行民法九〇〇条一号ないし三号のとおりに改められた。
すなわち、配偶者の相続分は、
配偶者と子が共同して相続する場合は二分の一に(改正前は三分の一)、
配偶者と直系尊属が共同して相続する場合は三分の二に(改正前は二分の一)、
配偶者と兄弟姉妹が共同して相続する場合は四分の三に(改正前は三分の二)改められた。
また、右改正法により、寄与分の制度が新設された。
すなわち、新設された九〇四条の二第一項は、共同相続人中に、
被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、
被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加につき特別の寄与をした者があるときは、
被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から
共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、
法定相続分ないし指定相続分によって算定した相続分に寄与分を加えた額をもって
その者の相続分とする旨規定し、
同条二項は、前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、
家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、
寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、
寄与分を定める旨規定する。
この制度により、被相続人の財産の維持又は増加につき
特別の寄与をした者には、
法定相続分又は指定相続分以上の財産を取得させることが可能となり、
いわば相続の実質的な公平が図られることとなった。
3 右のように、民法は、社会情勢の変化等に応じて改正され、
また、被相続人の財産の承継につき多角的に定めを置いているのであって、
本件規定を含む民法九〇〇条の法定相続分の定めはその一つにすぎず、
法定相続分のとおりに相続が行われなければならない旨を定めたものではない。
すなわち、被相続人は、法定相続分の定めにかかわらず、
遺言で共同相続人の相続分を定めることができる。
また、相続を希望しない相続人は、その放棄をすることができる。
さらに、共同相続人の間で遺産分割の協議がされる場合、
相続は、必ずしも法定相続分のとおりに行われる必要はない。
共同相続人は、それぞれの相続人の事情を考慮した上、
その協議により、
特定の相続人に対して法定相続分以上の相続財産を取得させることも可能である。
もっとも、遺産分割の協議が調わず、
家庭裁判所がその審判をする場合には、
法定相続分に従って遺産の分割をしなければならない。
このように、法定相続分の定めは、
遺言による相続分の指定等がない場合などにおいて、
補充的に機能する規定である。
二 相続制度は、被相続人の財産を誰に、
どのように承継させるかを定めるものであるが、
その形態には歴史的、社会的にみて種々のものがあり、
また、相続制度を定めるに当たっては、
それぞれの国の伝統、
社会事情、
国民感情なども考慮されなければならず、
各国の相続制度は、多かれ少なかれ、これらの事情、要素を反映している。
さらに、現在の相続制度は、
家族というものをどのように考えるかということと密接に関係しているのであって、
その国における婚姻ないし親子関係に対する規律等を離れてこれを定めることはでき
ない。
これらを総合的に考慮した上で、
相続制度をどのように定めるかは、
立法府の合理的な裁量判断にゆだねられているものというほかない。
そして、前記のとおり、本件規定を含む法定相続分の定めは、
右相続分に従って相続が行われるべきことを定めたものではなく、
遺言による相続分の指定等がない場合などにおいて
補充的に機能する規定であることをも考慮すれば、
本件規定における嫡出子と非嫡出子の法定相続分の区別は、
その立法理由に合理的な根拠があり、
かつ、その区別が右立法理由との関連で著しく不合理なものでなく、
いまだ立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えていないと認められる限り、
合理的理由のない差別とはいえず、
これを憲法一四条一項に反するものということはできないというべきである。
三 憲法二四条一項は、
婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する旨を定めるところ、
民法七三九条一項は、
「婚姻は、戸籍法の定めるところによりこれを届け出ることによつて、その効力を生ずる。」と規定し、
いわゆる事実婚主義を排して法律婚主義を採用し、
また、同法七三二条は、重婚を禁止し、
いわゆる一夫一婦制を採用することを明らかにしているが、
民法が採用するこれらの制度は憲法の右規定に反するものでないことはいうまでもない。
そして、このように民法が法律婚主義を採用した結果として、
婚姻関係から出生した嫡出子と婚姻外の関係から出生した非嫡出子との区別が生じ、
親子関係の成立などにつき異なった規律がされ、
また、内縁の配偶者には他方の配偶者の相続が認められないなどの差異が生じても、
それはやむを得ないところといわなければならない。
本件規定の立法理由は、
法律上の配偶者との間に出生した嫡出子の立場を尊重するとともに、
他方、被相続人の子である非嫡出子の立場にも配慮して、
非嫡出子に嫡出子の二分の一の法定相続分を認めることにより、
非嫡出子を保護しようとしたものであり、
法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図ったものと解される。
これを言い換えれば、民法が法律婚主義を採用している以上、
法定相続分は婚姻関係にある配偶者とその子を優遇してこれを定めるが、
他方、非嫡出子にも一定の法定相続分を認めてその保護を図ったものであると解される。
現行民法は法律婚主義を採用しているのであるから、
右のような本件規定の立法理由にも合理的な根拠があるというべきであり、
本件規定が非嫡出子の法定相続分を嫡出子の二分の一としたことが、
右立法理由との関連において著しく不合理であり、
立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えたものということはできないのであって、
本件規定は、合理的理由のない差別とはいえず、
憲法一四条一項に反するものとはいえない。
論旨は採用することができない。
よって、本件抗告を棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとし、
裁判官園部逸夫、同可部恒雄、同大西勝也の各補足意見、裁判官千種秀夫、同河合伸一の補足意見、裁判官中島敏次郎、同大野正男、同高橋久子、同尾崎行信、同遠藤光男の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
Author:manabu
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